公務員の政治的活動はどこまでOK/どこからNG?

夏の参院選が近づいています。

今回は「ネット選挙解禁」ということで、ネット上での政治的活動がますます活発に展開されることでしょう。政治家に限らず、いまやたくさんの方がSNSなどを活用して政治についての意見を表明したり、実際の運動に役立てたりしています。その一方で、いまいち波に乗り切れないのが公務員です。

周知のとおり、公務員の政治的活動は「広汎に」制限されています。「広汎に」と言いましたが、これは物の言い様で、実際は「あいまいに」とした方が実情に沿っているでしょう。

公務員が行ってはならない政治的活動(これを「政治的行為」と言います)については人事院規則一四―七(政治的行為)第六項に17項目が列挙されています。ここまで事細かに書かれると、もう政治絡みのことに関わればいずれかにタッチしてしまいそうです。ちなみに、地方公務員の場合は地方公務員法第36条が適用されますが、いざとなれば地方の事情にも国の法規が援用されるのが常ですから、実質さほど差はありません。

とはいえ、もちろん政治的活動の全部が全部禁止されているわけではありません。「人事院規則14―7(政治的行為)の運用方針について」には「職員が行うことを禁止又は制限される政治的行為に関し……政治的目的をもつてなされる行為であつても、この規則にいう政治的行為に含まれない限り……違反するものではない」と書いてある。つまり、どこそこの政党/候補者を支持する/反対するための行為であっても、規則で禁止している方法に依らなければOKなのです。

では肝心の政治的行為ですが、概括すると、主体的・主導的・意図的で且つ不特定多数を対象とする活動はアウトだけれど、受動的・従属的・偶発的で且つ身内や非公開の場であればセーフなようです(ゆえに、公務員の職員組合が組合員に対して政治的主張をするのは構わない)。たとえば、デモや署名活動を企画・主導するのはダメだけれど、「単に『示威運動』に参加すること」は差支えなし。またビラやポスター、政治的な雑誌を作成・編集してこれを張ったり配布したりするのはアウトだけど「たまたま友人に交付するような行為及び単なる投稿等」ならだいじょうぶ。ちなみに特定政党への投票の呼びかけや、政治的団体に加入するよう勧誘するのも、それが組織的・計画的でなければよくて「選挙に際したまたま街頭であつた友人に投票を依頼するような行為」は問題ない。

ちょっとおもしろいのは人事院規則第六項第十四号の「政治的目的を有する演劇を演出し若しくは主宰し又はこれらの行為を援助すること」で、演出するのはNGだけど、「俳優として出演することは含まれない」のだそうです。ここまでくると重箱の隅をつつくような観があり、書かれてなければなんでもアリなのかという気がしてきます。

すると、少し気になるのがSNSの扱いです。規則には明記されていませんが、たとえばFacebookやTwitterで「A党に投票しよう!」とか「私はB党を支持する」とか「C政策には反対だ」と書き込むのはどうなのでしょうか。投票の呼びかけは、いわゆる「勧誘運動」に該当するように思われますが、組織的な活動ではない個人的な行為なのだからセーフのようにも思われます。Twitterならまだしも、Facebookやmixiはほとんど知人ばかりですし、身内を対象とした行為として処理できそうな気もしますけど……。

また政治的意見の表明も、人事院規則第六項第十一号に「集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること」とあり、ここでは音声伝達手段のみが想定されていますが、援用すれば、不特定多数の人が閲覧できる場で政治的意見を述べることはNGだと解釈できなくもありません。

結局のところ、いずれにしても微妙なラインです。いまのところ事例はないようで、試みに「網走市職員のソーシャルメディア のソーシャルメディアの利用に関するガイドライン」(↓)を参照してみましたが「SNSを使用して、これこれこういう政治的活動はしちゃダメだからね?」と明記されているわけでもなく、なんともグレーな言い回しになっています(網走市の職員の方々も白黒はっきりと断言できるほどの自信はないのでしょう)。結果的に、政治に関する発言は一切慎むようにとも取れかねない文言になってしまっている。
http://www.city.abashiri.hokkaido.jp/990site_policy/files/socialmedia_guideline_FAQ.pdf

ところで、SNSを活用している政治家として世界的に有名な人物といえばオバマ大統領ですが、アメリカでは公務員の政治的活動の規制はどうなっているのでしょうか。一言で言えば「勤務外だったらたいがいOK」です。もちろん、勤務中に政治運動するのは(これは公務員に限らず民間だってそうでしょうが)ダメですし、自分の職権を乱用して他者に特定政党への支持を強要するのも禁止です。政治家への献金を促すような行為もよろしくないようです。とはいえ、これらは常識の範囲ですから、これをはみ出さない限りは、集会への積極的な参加どころか政党の党員になることだってできます(大統領府のスタッフやCIA職員など一部特別職は除きますが)。ちなみに、地方公務員法第36条第1項に「職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない」とあります。ここも微妙なところで、団体の役員にならなければ加入はOKなのでしょうが、さりとて政党・団体へのコミットメントがどの程度ならセーフなのかはよくわかりません。

公務員がSNSで政治的活動をするのも特段の縛りはありません。U.S. OFFICE OF SPECIAL COUNSEL(米国特別法務官室)の「ハッチ法とソーシャルメディアに関するよくある質問について」(↓)からは、SNSを使った政治的意見の表明にほとんど制限がないことが読み取れます(特に2番目の項目)。
http://ethics.od.nih.gov/topics/Hatch-Act-and-Social-Media-2012.pdf

 またこちら(↓)の「米英仏における公務員の政治的行為の制限」を見ると、アメリカに限らず、イギリス、フランスも日本に比べるとずいぶん緩い。少なくとも、日本の公務員は専務時間の内外の区別なく諸々の政治的活動を規制されるのに対し、米英仏はここの区別をはっきりと立て、勤務時間外の活動を広く認めている(人事院規則第四項に「法又は規則によつて禁止又は制限される職員の政治的行為は……職員が勤務時間外において行う場合においても、適用される」とある)。諸外国と比べると、日本の公務員は政治的活動、ひいては表現の自由がかなり制限されているといえそうです。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110701118.pdf

ときに、どうして公務員の政治的活動が制限されるのかというと、実はこれがいまいち明確でなかったりします。人事院規則第2項には、その目的として「国家公務員は、国民全体の奉仕者として政治的に中立な立場を維持することが必要であると共に、それらの職員の地位は、たとえば、政府が更迭するごとに、職員の異動が行われたりすることがないように政治勢力の影響又は干渉から保護されて、政治の動向のいかんにかかわらず常に安定したものでなければならない」とあります。また、地方公務員法第36条第5項には「本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない」とあります。つまりは、

(1)「全体の奉仕者」として中立的な立場に立たなければならないから。
(2)公務員の地位を安定させるため。

というのが2大理由のようです。

しかしながら、全体の奉仕者だから政治的活動しちゃダメというのは、一見するともっとものようにも思えますが、あまり合理的とは言えません。A党支持を表明していた公務員が、B党政権の誕生によって職務怠慢に陥る、なんてことがあるでしょうか? 公務員は時の政権に従って政策を遂行するのが職務ですから、支持政党の如何によって業務効率が変化するのであれば、その人に公務員としての適性がないだけの話です。また、表明はしなくとも心の内ではいずれかの政党を支持している(でなければ投票なんてしません)のですから、政治的活動への参加もしくは意見の表明と業務効率はまったく関係ないと言ってよいでしょう(もし関連するのだとすれば、公務員は一切の感情をもたない機械のような人でなければ務まらないということになります)。要は、勤務中にしっかりと「全体の奉仕者」として働いていれば特に問題はないはずで、諸外国の規則はこの考え方に拠っています。

 無論、たとえば部長レベルの、諸々の主体(関連民間団体や部内職員)の意思決定に明に暗に影響を与えうる地位にある人の政治的活動は、これを制限するのもやむなしでしょう(諸外国も上級職になればなるほど制限が強くなる)。しかし、これは「全体の奉仕者」だからという理由とは異なる次元の話で、一般職の公務員すべての政治的活動が制限される理由にはなりません。

公務員の政治的活動の制限は、むしろ(2)の理由の方が大きい。アメリカでは公務員の人材任用法として「猟官制(spoils system)」という制度を採用していました。これはどういう制度かというと、A党が政権を取った場合、A党を支持していた人を官吏として採用する。しかしB党が政権を奪取すると、A党時代の官吏を辞めさせて、今度はB党派の人に官職を与える、というふうに、時の政権が自分たちの支持者で行政を運営するのです。つまり官職という獲物(spoils)をぶらさげて、人々を自党に協力させようとしたのです。

猟官制は行政のすみずみにまで国民の意向が浸透しやすい一方、これでは公務員の地位は安定しませんし、政権が変わるごとに官僚組織の更新が行われるようでは行政の質が乱高下するのも避けられません。日本ではこれを避けるために、公務員の任用にあたっては「能力制(merit system)」を採用しています。支持政党の如何に関わらず、人材は採用試験の結果に基づいて行われるのです(そもそも政権交代自体なかったので猟官制ができなかっただけだ、という話でもあります)。

能力制の場合、各々の公務員は免職のおそれがほとんどない固定的な地位に置かれることになるため、公務員の政治的中立性や偏向の防止といった課題が出てきます。しかし、先述したとおり「全体の奉仕者」としてふさわしい仕事をしていればよいのですから、能力制においては政治的活動の幅は広く許されても構わないはずです。むしろ問題になるのは猟官制の方で、こちらは政治的思想信条の如何がダイレクトに響いてきますから、公務員の地位を守るために政治的活動を制限するのも一理あります。ですが、日本は基本的に能力制ですから、公務員の地位の保護云々と活動の制限は結びつきません。

結局のところ、公務員の政治的活動の大幅な制限に合理的な理由を見出すのは困難だと言わざるをえません。またいざ政治的活動をしようにも、アメリカのように「これこれは良くてこれこれはダメ」という明確な基準もなく、グレーゾーンが広大であるため身動きが取れない。結局は「さわらぬ神に祟りなし」で、政治的なことには一切かかわらないことが最も賢明になってしまいます。もとより日本は政治的活動がそれほど盛んではありませんので、多くの公務員にとって諸々の制限は「どうでもいいこと」なのかもしれませんが、いみじくも憲法の遵守を求められている身分の者が、自身の「表現の自由」について無関心なのもいかがなものかとは思います。



ところで最近、公務員の政治的活動について新しい判例が最高裁で出されました。
http://mainichi.jp/opinion/news/20121208k0000m070099000c.html

これによると、公務員が休日に政党の機関紙を配るのはセーフなようです。ただし、これが政治的行為の明確な基準となるとは言えず、また政治的活動の制限が違憲とされたわけでもないため、事態はさほど変わっていません。
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1 Comments

名無しさん  

No title

職責よりも、自分の思想・信条を優先して行動する教員とかいるからなぁ。

2015/04/12 (Sun) 10:00 | REPLY |   

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