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危機に瀕する日本産米――飼料用米は救世主たりえるか?

秋深まり、新米の美味しい季節となってまいりました。しっとりふっくら炊きあがったお米を口いっぱいにほおばる幸せは、日本人にとって何ものにも代えがたいですね。

しかし、今年の新米はある「危機的状況」にあったことを、みなさまご存知でしょうか。

「近年の異常気象で、お米が大凶作になるかもしれなかった、とか?」

いえいえ、お米の生育は全国的に平年並みか、やや良い程度でしたから、私たちが新米にありつけない恐れはまったくありませんでした。

むしろ、危惧されていたのは「豊作になること」であり、その結果として「米農家が食べていけなくなること」だったのです。

「たくさんお米が獲れればめでたいことだろうに、豊作がなぜいけないのか。それに、お米がたくさんあるのに米農家が『食べていけない』というのは、なんだか珍妙な話じゃあないか」

まったくその通りなのですが、日本のお米は、長らくその「珍妙な」状態にありまして、今年はそれが特に際立っていたのです。それでは、これより今年の新米が直面していた「危機的状況」について解説いたしましょう。

「減反」という言葉を、一度は目にし、耳にしたことがあるかと思います(小中学校の社会科の教科書にも載っていますしね)。ざっくり説明しますと、減反とは、お米を植えていた水田にお米以外の作物を植えて、お米の生産量を抑える政策のことです。

では、どうしてお米の生産量を減らさなければならないのでしょうか。

お米の生産技術は日進月歩で高まってはいるのですが、食生活が多様化したこともあって、お米の消費量は昭和40年頃と比べると半分にまで減っています。お米をたくさん作っても、食べる量が少なければ、お米は余ってしまいます。余ったお米は、しばらくの間は倉庫で保管できます。けれど、米余りが続けばいずれ倉庫の容量はいっぱいになり、納まらない分は放出しなくてはなりません。古いお米は、新米に比べると値が下がります。お米の需要は飽和状態ですから、安いお米が市場に流出すると、新米の価格を押し下げてしまいます。

これが「豊作だと米農家が食べていけない」の理由です。豊作になると、倉庫に貯まっている古い米が大量に「押し出されて」しまい、その分、米価低下の圧力が強くなってしまう。そのため、米農家にとって豊作は必ずしも喜ばしいことではないのです。

将来的に見て、米価が下落していくであろうことは、需要の傾向を見れば予測できたことでした。そのため、政府は上述した減反政策などで、米農家がお米以外の作物を育てることを奨励してきました。けれど、現にこれほどまでに米価が下落しているわけですから、十分成果を上げたとは言えません。

なぜ減反はうまくいかなかったのか。原因はいくつか考えられますが、ひとつは、米は日本人の「主食」ということもあり、政府が生産量を調整したり、米価が下落すればそれを補填したりと、手取り足取り世話を焼いたため、米農家が危機感を抱き難かったこと。もうひとつは、お米から別の作物に転作するためには、技術や知識を新たに習得したり、農業機器や設備を新調したりしなければなりませんが、その負担が大きいことです。これらの理由により、今にいたるまで、需要に見合う程度にまでお米の生産量を抑えることができなかったのです。

だいたい一俵(60kg)あたりの米価が平均10、000円/60kgを切ると、米農家の採算ラインを下回ると言われていますが、昨年の米価は平均12,000円/60kgに達しておらず過去最低額、平成に入ってから平均20,000円/60kgを超える年もあったことを考えれば「大暴落」と評しうるほどの水準でした。

昨年と一昨年は豊作だったため、在庫はすでにパンパン。ここに昨年並みの豊作が重なれば、さらなる米価の大暴落は避けられません。デットラインの平均10、000円/60kgはすぐそこに迫っています。数十年かけても進まなかった転作が、今年一年で一気に進展するわけがない。このまま米価下落を止められなければ、米農家が壊滅してしまう――。

これが、平成27年当初の状況だったのです。

ところが、27年産米の米価は、9月の速報値で平均およそ13,000円/60kgと、昨年度よりも若干ではありますが値上がりしました。米が特別不作だったわけではありません。転作が劇的に進んだわけでもありません。ではどうして、今年の米価は「危機的状況」を脱せたのでしょうか。

米価下落の危機を救った立て役者にして切り札、それが「飼料用米」です。

お米と言っても、その用途によって様々に分類されます。まず、私たちが日常的に炊飯器で炊いて食べている「主食用米」、お酒を造ったり、おせんべいを作ったりするための「加工用米」、パンや麺を作るために粉にする「米粉用米」、そして、私たち人間ではなく、牛や豚、鶏などの家畜の餌となる「飼料用米」です。

今まで「米価」と言ってきたのは、国内で作られるお米の大半を占める「主食用米」の価格のことでした。ですから、同じお米でも、別の用途に回してしまえば、その分「主食用米」の供給量は減り、米価の下落を抑えることができます。

では、数ある用途のうち、なぜ「飼料用米」なのでしょうか。

周知のとおり、日本の食料自給率は他の先進諸国と比べて低い水準にあります。政府は、これを安全保障上の大問題として、目下これの向上に努めているところです。この食料自給率ですが、食肉は飼料の自給率で割り引いて算出しています。そのため、たとえば日本人が国産の鶏肉のみを食べていても、その鶏の餌が輸入品100%だとしたら、自給率はゼロになってしまうのです。

飼料は「粗飼料」と「濃厚飼料」に分別されます。前者は、乾草やサイレージ(牧場に行くと、布でぐるぐる巻きになった俵型の物体を見かけますが、あの中で発酵させた牧草などのことです)など、主に植物の葉や茎の部分を餌としたもの、後者はとうもろこしなどの穀類を中心とした、特にタンパク質を豊富に含む栄養満点の餌のことです。

日本は粗飼料であれば8割弱を自給できているのですが、濃厚飼料は安価な輸入とうもろこしに圧倒され、1割も自給できていません。飼料用米は濃厚飼料に分類されますから、これの増産は自給率の向上に直結しますので、飼料用米で国産濃厚飼料を賄うというプランは政府にとってたいへん魅力的でした。

※なお、水稲には「WCS(ホール・クロップ・サイレージ)用稲」と言って、葉や茎、そして未登熟の実をサイレージにするための種類もあるのですが、粗飼料はそこそこ自給できているためか、飼料用米よりは重要視されませんでした。

また、上述したように、お米から転作するにはさまざまなハードルがありましたが、飼料用米の作り方は主食用米とほとんど同じで、設備も流用できますから、米農家の負担が最小限で済むというメリットがあります。さらに、他の用途のお米は、それ専用の品種でなければ使いものになりませんが、飼料用米は主食用米をそのまま転じてもOKでした(後述するように、飼料用に改良された多収性品種も存在します)。極端な話、コシヒカリを飼料用米とすることも可能なのです。主食用米として作付した後でも、申告ひとつで飼料用米に「変身」できるため、主食用米生産量の「調整弁」として打ってつけでした。

かくして、政府や農協は飼料用米推進の一大キャンペーンを推進していくこととなります。しかし、なにかと都合のよろしい飼料用米ですが、大きな、とても大きなネックを抱えていました。

それは「価格の安さ」です。

26年産の主食用米は平均12,000円/60kgでしたが、飼料用米の相場はいくらくらいかと言いますと、だいたい1,000~1,200円/60kg。どんなに米価が下落していても、なお10倍の開きがあります。これなら、儲けが少なくなったとはいえ、主食用米を作った方がまだマシです。

それでも飼料用米を作ってほしい――となれば、国が採り得る手段はひとつしかありません。

すなわち、主食用米並みの収益が出るくらい、飼料用米に補助金を出すのです。

「経営所得安定化対策」と呼ばれる一連の助成制度において、飼料用米はかなりの厚遇を受けています。なお、当制度の助成は1反(10a)単位で行われます。そこで、事前準備として、何の助成もない場合の主食用米と飼料用米の1反あたり収益を示しますと、日本の水田1反あたりの標準的なお米の収量はおよそ9俵(=540kg)ですので、これを基に計算すると、主食用米で1反およそ10万円、飼料用米で1万円の収入になります。この9万円の差を埋めなければ、飼料用米を作ろうとする農家は増えません。

さて、では飼料用米にはどのような助成があるのでしょうか。

まず、「水田活用の直接支払交付金」というメニューがあります。こちらでは、収量に応じて1反あたり55,000円~105,000円の交付金が受け取れます。最高額は単収で680kg/10aを達成していなければなりませんが、収量の多い多収性品種を栽培していれば、それほど難しい目標ではありません。

またこのメニューでは、「戦略作物」(国が特に栽培を奨励している作物。飼料用米も含まれています)の二毛作に15,000円/10a、耕畜連携の取り組み(飼料用米のわらを飼料にしたり、畜産農家からもらった堆肥を水田に撒いたり、遊休状態の水田に放牧したりすること)で13,000円/10a助成されますので、やりようによってはさらに加算されます。

次に「産地交付金」。こちらは飼料用米向けに改良された多収性品種に取り組めば12,000円/10aが交付されます。今年は飼料用米を作りたい農家が多かったため、多収性品種は在庫切れを起こしていましたし、主食用米から飼料用米への移行を促していたこともありまして、その救済処置として、県単位で10,000円/10a程度の助成を行っているところが多いようです(市町村単位でも、独自で5,000円/10aくらい助成しているところもあります)。

なお、主食用米にも「米の直接支払交付金」というメニューで一律7,500円/10aが交付されます。ただし、昨年度までは15,000円/10aだったのが半額となっており、また平成30年度以降の廃止がすでに決まっています。また、生産数量目標という、主食用米の生産量を抑えるために国が都道府県ごとに設定した目標値があるのですが、これをクリアすると5,000円/10aが交付されます。この生産数量目標はこれまで達成できたためしがなかったのですが、今年は主食用米から飼料用米に流れた農家が多かったため、達成できる見込みの都道府県もあります。

主食用米にも助成が出るにせよ、飼料用米も上手に取り組めば、主食用米と遜色のない収益を出すことができます。特に、今年は米価下落が懸念されていましたから、フタを開けてみないとどれだけ儲けが出るかわからない、もしかすると大赤字になるやもしれない主食用米より、助成額があらかじめ予測でき、安定した収益が見込める飼料用米にシフトする米農家が相次ぎました。このことが、27年産米の米価下落を防いだのです。

※経営所得安定対策の概要はこちらになります。

http://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/keiei/pdf/271001_pamph_all.pdf

※主食用米と飼料用米の収益の比較については、JA全農が作成した次の資料もご参照ください。

http://www.zennoh.or.jp/kome/pdf/shiryou_mai.pdf

かくして、飼料用米の活躍によって、史上最大の危機を迎えていた米価は下落を免れ、日本の米農業は守られたのでした。めでたしめでたし――で終わりたいところなのですが、なかなかそうもいきません。というのも、これでは、米価下落を抑えるために多額の税金が投じられただけだからです。つまり、私たちの所得の少なからずが米農家に移転された上に、ちょっと意地の悪いことを言えば、国が「余計な手出し」をしなければ、私たちは新米をもっとお安く食べられたはずです。国民のほとんどが意識していませんが、米産業を守るため、国民がそれなりの経済的な負担を負っていたのです。

国も米農家も、飼料用米への多額の助成は「応急措置」であると認識しています。主食用米にせよ飼料用米にせよ、最終的に目指すのは、助成金なしでもやっていけるよう「独り立ち」することです。そのための手立てのひとつが「ブランド化」です。

主食用米の供給過多は解消される兆しはなく、たくさん作っても儲けは上がらない。ならば、収量はそれほどなくとも、消費者が高値でも購入したいと思うほどのブランドイメージがついたお米を作る。今年は青森県産の品種「青天の霹靂」が何かと話題になりましたね。これまでは、お米はとりあえず作れば農協や国が買い取ってくれましたが、いまやマーケットの動向や消費者の志向に敏感に反応し、それに合致するものを戦略的に生産しなければ生き残れないのです。

飼料用米もそのものはブランド化できませんが、お肉に「国産のお米で育てた」というプレミアを付けて売り出そうという動きが出ています(たぶん、併せて輸入飼料のネガティブキャンペーンが必要になると思いますが)。

しかし、ブランドイメージは一朝一夕で浸透するものではありません。しばらくは飼料用米に多額の助成を出して米価を抑制するという体制が続くでしょう。そうこうする間に、飼料用米を生産する農業者が交付金に依存するようになって、独り立ちへの意識がなくなってしまう可能性もありえます。また、米価下落の恐れが去ったわけではありません。例年に比べれば主食用米の作付面積は減少しましたが、それでも在庫は山ほど残っているのです。

今年は、崖から落ちる寸前でなんとか踏みとどまった感があります。しかし、それは国策として多額の助成金を投入することで何とか「延命」できたのです。はたしてここから、米産業が助成金なしでも成立する「ビジネス」へと成長できるのか。日本産米の存亡をかけた戦いは、これからが正念場と言えそうです。
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