豊洲新市場問題――問題の本丸は都の行政体制

小池氏が東京都知事に就任して間もなく発覚した豊洲新市場移転問題。詳細はテレビ等で連日報道されていますので、ここで改めて述べることはしませんが、危惧されている「安全性」については、おそらく大した問題にはならないだろう、と私は見ています(検査すれば危ないかどうかはすぐわかりますしね)。

より深い問題は、都の行政組織そのものが不健全な状態にあるのではないか、という点です。

まず公官庁における意思決定の仕組みを簡単にお話いたします。

部署の組織編成は、その部署ごとに異なりますが、「係」を最小単位としますと、まず主担当者が案を作って「発議」します。発議された案は他の係員に回覧され、目を通した証として判子が押されます。係員すべての判子が押されると、次に係長がチェックする。案件によっては他の係にも回され、係レベルで必要な判子が集まったら、次に副課長、主幹等々、管理者レベルに案が上がっていき、最終的に決定権者(事の重大性によって課長だったり、部長だったり、知事だったりします)が判子を押せば「決裁」となり、案が執行されます。

このように、組織内の関係する部署・成員すべての承認を得てはじめて組織の意思決定がされる制度を「稟議制」といい、公官庁であればどこでもこの方法を採用しています。

稟議しなければならない範囲は、案件の性質によって異なります。たとえば補助金等のお金の支出がある場合、決定権者の決裁を得た後、大概はその部署の総務へと回されます。総務でも案が回覧され、経理担当を中心に、第三者的立場から支出の内容が適切か、事業は計画どおり執行されているか等、全般にわたって非常に細かくチェックされ、少しでも疑わしい箇所があれば容赦なく弾かれます。このチェックをクリアし、総務の決定権者の決裁を以て支出が決定されますが、実際に支出の手続きを行うのは出納担当の部署ですので、次は出納に回され、そこでまたまたチェックされ、出納の決定権者の決裁が下りてようやくお金が支出されます。

さらに、複数部署に関係する案件の場合は「合議」といって、他の部署からも決裁を得なければなりません。官公庁は、良くも悪くも「タテワリ」組織ですので、案をずんがり他部署に持ち込んでも「こんな話は聞いていない!」と突き返されるのがオチです。そのため、あらかじめ関係部署間で協議(案件にも因りますが、ほとんどの場合は課長・部長レベルでの調整になります)して、概ね方針が固まってから、主担当の部署から合議を回す、というプロセスを経ます(そのため、合議に回す案は、案と言いつつも、その内容は既に決定済みです)。

さらにさらに、官公庁は予算がなければお金の出し入れはできませんが、予算は議会で承認されてはじめて使えるようになりますので、各部署は業務に必要な経費を積算して予算案を作成するのですけれど、これが議会に提出されるためには、財務担当の部署を納得させなければなりません。これがかなりの難関で、財務は少しでも予算額を縮小しようとしますから、積算根拠に少しでも曖昧さが残っていると、そこを突かれてがりがりと予算は削られていきます。そうはさせじと、各部署はその予算の必要性を合理的に説明し、財務の首を縦に振らすべく尽力する。世に公表される予算は、各部署と財務とが鎬を削った末にできあがったものなのです。

さらにさらにさらに、執行された事業は、翌年に監査を受けることになります。監査員も人数が限られていますから、すべてをチェックすることはできませんので、支出額の大きな事業を中心に抽出されます。この監査で大小様々な問題が浮き彫りになることが多いため、事務担当の官僚・役人にとっては相当にプレッシャーのかかるイベントです。

世間では、官公庁は隠蔽と汚職にまみれている、というイメージが強いようですが、上述のとおり、ある案系に対して、たくさんの部署や職員があやしいところがないか事細かにチェックしていますから、容易にごまかしは利きません。仮に隠蔽しようとすれば、関係するすべての部署と口裏を合わせなければなりませんが、大きな案件であればあるほど、多くの部署が絡んでいきますから、その調整には途方もない労力が必要となりますので、よほどの事情がない限り、隠蔽する気などまず起きません。

都のHPを見ると、東京都中央卸売市場は知事部局のひとつに位置づけられており、そのなかの「新市場整備部」が豊洲市場移転の主担当部署のようです。独立採算制で運営されているため、他の知事部局とは多少異なる点もあるでしょうが、これまで述べてきたのと同じように稟議され、他部署からチェックされ、それから執行されているはずです。市場移転は巨額の予算を注ぎ込んだ一大プロジェクトなのですから、たくさんの部署が絡んで、綿密な協議とチェックの上で進められているはずで、それでも隠蔽され続けていたのですから、これはたいへんな事件です。

本件が示唆しているのは、都庁という組織で自浄作用が働いていない可能性です。すると豊洲新市場の問題は氷山の一角に過ぎず、他にも隠蔽したままの事案があるかもしれません。もしくは、何らかの強い圧力のもとで隠蔽が既定路線となっていた可能性もありますが、これほどの大組織ですから、もし本当なら並大抵の圧力ではありません。いったいどのタイミングで、どの部署で、誰が、隠蔽することを決めたのか、一刻も早く全貌が明らかになることを願うばかりです。


※豊洲新市場関係のパンフレットを見ると、全面的に土壌を除去して盛土をする、とは明言されておらず、また敷地全体が汚染されているわけではない、としている。もしかすると、都の内部では、汚染濃度の高い土壌のみ除去すれば安全性は十分であるから、土壌の全面除去及び盛り土は必要ない、ということで何事もなく話が通っていたのかもしれない(専門家会議等の検証や提言には強制力はない)。その場合、担当部署が議会でどう答弁していたか、入札時に公示された設計書及び現行計画の設計図はどうなっているか等が問題になってくる(もし全面に盛り土する旨を明言・明記しているならば大問題だが、そうでなければ行政の責任をどれだけ問えるかは疑問だ)。

『築地市場の移転整備』
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/book/pamphlet.pdf#page=7
『築地市場の移転整備 疑問解消BOOK』
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/book/book_all.pdf#page=12
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