豊洲新市場の「地下空間」はどうしてできたのか――ネット上で公表されている資料からの考察

現代は「情報化社会」と呼ばれていますけれど、その名のとおり、ネットを使えばだいたいの情報は手に入ってしまいます。

そこで、本稿では目下騒動となっています「豊洲新市場地下空間問題」について、主に下記のホームページを参照して「どうして地下空間ができあがったのか」を考察してみたいと思います。

↓ 東京都中央卸売場『豊洲市場に関する会議資料』
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/siryou/

↓ 東京都議会ホームページ『会議録の検索と閲覧』
http://asp.db-search.com/tokyo/


豊洲新市場は、元の敷地がガス製造工場であったので、深刻な土壌汚染が懸念されており、移転の案が出されていた当初から「生鮮食品を扱う場として不適切である」と批判されていました。

そこで、都は平成19年5月19日に「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」、いわゆる専門家会議を設置して、汚染を問題ないレベルまで除去する方法を審議することとします。

注目すべきは、同日の第1回会議において、最終的に採択された土壌汚染対策の大筋が都案としてすでに提示されているということです。当案では、現地基盤の高さであるA.P.+4.0m(A.PとはArakawa Peilの略で、東京湾の最大潮位)からA.P.+2.0mまでは土壌を入れ替え、A.P.+2.0mより深い土壌は処理基準の10倍を目途に判断、そして全敷地に2.5mの盛土、合計A.P.6.5mとなった上にアスファルトやコンクリートで舗装して、その上に建物を建てる、と計画されています。

↓ 資料6 東京都が予定している土壌汚染対策
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/01/shiryou06.pdf

なお、この時点で地下利用についても多少議題に上ったようで、後藤新市場建設調整担当部長(当時)は「市場という施設そのものが割と高層化になじまない、また地下というものになじまない施設でございますので、・・・地下の利用はほとんど考えてございません」としつつも、「一部どうしても場内の搬送車の置き場として地下を考えてございます。例えば雨水等を一時ためなくてはいけないということ、雨水利用も考えてございますので、そういった意味で、一部地下のピット等が出てくるということは想定」していると、地下利用に一定の含みをもたせています。

専門家会議はこの都案を基にして、その実効性や細かな留意点等を審議していき、特に大きな修正はないまま、平成20年7月26日の第9回(最終)会議において、都案をほぼ踏襲した報告書が提出されます。

↓ 「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」報告書要旨
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_001.pdf

報告書提出後の直近の議会では、平成20年9月16日の平成20年経済・港湾委員会において、宮良新市場建設調整担当部長(当時)から報告書の説明があり、土壌については「旧地盤面から下部二メーターまでを掘削し、土壌を入れかえ、さらに二・五メーターの盛り土。APプラス二メーターより下部は、環境基準を超える汚染物質を除去。盛り土の上部を厚さ二十五センチから四十センチのコンクリート盤やアスファルト舗装で被覆」と説明しています。ただ、定例会では都議会議員から土壌対策の具体的な批判・質問はほとんどなく、専ら「安全だと言われても信用できない」といった意見が出されるのみでした。

以後、都議会では豊洲新市場が議題に上るたびに、議員からこうした「不信感」が繰り返し表明されることになりますが、都は終始、専門家会議お墨付きの方法に基づいているから大丈夫、と返して切り抜けていきます。都にとっては「専門家会議で太鼓判を押されている」ことが、豊洲新市場の安全性を証明する唯一にして最強の根拠であり、また議員の追究をかわすための盾でもあったのです。

専門家会議と入れ替えるようにして、「豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議」、いわゆる「技術会議」が平成20年8月15日に設置されます。当会議は、工事を実施するにあたり、公募で寄せられた技術・工法を評価・検証して、最も適した方法を採用するためのものですが、上記の事情もあり、専門家会議の方針をほぼそのまま実行に移すことが(政治的に)求められていました。都の職員も委員も、そのことは重々自覚していたであろうにも関わらず、工事が終わって見れば広大な地下空間が設けられた。いったいなぜなのか。

平成20年8月15日の第1回会議では、土壌汚染対策工事にかかる新技術・新工法(「新」とはついていますが、要するに最も効果的・効率的な方法ということで、まったく新しい方法でなきゃダメ、ということではないようです)の公募方法について議論されています。そこで都は、応募の要件として「第9回の専門家会議において都に提出された報告書のうち、9の「今後東京都がとるべき対策のあり方」の内容を満たす等の技術・工法であること」を公募要領に掲げている旨の説明をしています。

公募期間は平成20年8月18日から9月26日まで。民間企業や研究機関等から述べ221件の提案があったと、平成20年10月7日の第3回会議で報告されています。

続く平成20年10月21日の第4回会議では、応募のあった提案の評価方法について議論。そのなかで、委員から「提案技術には、緑化や地下空間利用についてもあるが、これらは対象外とするのか」との確認に対し、都は「汚染土壌・汚染地下水対策などとパッケージになっていれば、検討の範疇となる」と返答しており、十分に汚染の除去ができるなら、土壌の埋戻し・盛り土にはこだわらない姿勢を示しています。

応募のあった提案を基に、平成20年11月5日の第6回会議で都から対策案が5つ提出されています。うち案の5は、建物建設地の地下(A.P.+2.0m~+6.5m)は掘削後も埋め戻さず、地下空間を作り、そこを地下駐車場にしたり、水質モニタリング施設を設置するものとなっています。

↓ 汚染物処理、液状化対策などを含む一貫した対策(案)
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/6-5.pdf

しかし、案の5は平成20年12月25日の第9回会議において「土地の利用、機能、価値の問題が、経費に対して十分プレイバックされない」ことを理由に除かれ、全体計画は、全敷地で掘削・埋戻し・盛り土を行う他の案を組み合わせて作成されることになりました。この時点で、地下空間を活用する方針は打ち切られることとなります(なお、案の5は建物地下に埋戻し・盛り土を行わないにも関わらず、健康への影響が議論されることはありませんでした)。

ですが、その前に開かれた平成20年12月15日の第8回会議において、都から、国の中央環境審議会で土壌汚染対策法の改正が議論されており、その指定区域となった場合の対策として、建物地下に「地下水浄化ができるような、そういった作業ができるような空間も確保する」ことを考えている、との説明があります。しかし、当回の会議では、その空間がどれほどの広さとなるか、設置する必要があるか等の議論は行われていません。

↓ 地下水管理について
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/8-8.pdf

平成21年1月15日の第10回会議で策定された全体計画でも、この「作業用地下空間」については何ら言及されていません。

↓ 全体計画の策定
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/10-3.pdf

平成21年2月3日の第12回会議で技術会議の提言が報告書としてまとめらました。ここにも、地下空間についての言及はありません。また、当報告書の「地下水の浄化確認」の項目では「土壌汚染対策法の改正を国が検討していることから、その内容を見極めながら、豊洲新市場予定地が同法の対象となった場合でも対応できるよう、地下水の水質をモニタリングできる観測井戸を設置する」とあり、法改正への対応として地下作業空間を設けることはせず、地上でチェックできる井戸を設置するのみとなっている。

当提言については、平成21年2月25日の平成21年第1回定例会で説明されていますが、比留間中央卸市場長(当時)は「今回、技術会議で取りまとめた土壌汚染対策は、専門家会議の提言を確実に実現するなど、安全・安心を高いレベルで確保」していると述べ、専門家会議の方針を崩していないことを強調していますが、地下空間の有無については何も語られていません。

また、平成21年11月から平成22年10月にかけて、都議会に「東京都中央卸売市場築地市場の移転・再整備に関する特別委員会」が設置され、豊洲新市場について集中的に質疑が行われました。その際も、地下空間を設ける旨の説明はありませんし、宮良中央卸売市場新市場建設調整担当部長(当時)は「モニタリングについては、現行の土壌汚染対策法で呼ばれている指定区域でございますが、その区域を外すことだけでございます」と、モニタリング検査を実施しても、同法の要措置区域には指定されることはない、と絶対の自信を示しています。事実、豊洲新市場の敷地は形質変更時要届出区域には指定されても、要措置区域には指定されていません。

しかし、少し時間が下りますが、平成23年9月30日の経済・港湾委員会では、田の上いくこ委員より「土壌汚染対策法の二年間のモニタリングで、もし汚染が除去できていないということがわかった場合にどうするのか……本体の建設工事が完了し、建物の下に発見された場合など懸念する」との質疑に対し、加藤基盤整備担当部長(当時)は「操業に由来する汚染が検出されることがないよう、工事に万全を期してまいります」と返答。田の上委員は「今回は万が一ということが考えられていないのか」と不満を表明したものの、今後の課題として質問を打ち切っています。

しかし、全面埋戻し・盛り土の弱点は、まさにここだったのです。土壌汚染対策法の改正は、技術会議の報告がまとまった後のことです。おそらく、改正するとの情報も、専門家会議で提言がまとまった後に出てきたのでしょう。都としては、全敷地で掘削・埋戻し・盛り土をするという専門家会議の提言を「錦の御旗」にしてきましたから、今更これを変えることはできない。しかし、もし盛り土を敷いて、その上に建物を置いて、それで要措置区域に指定されてしまえば、建築物の敷地を掘り返すわけにはいきませんから、打つ手なしです。スケジュール上、地下水のモニタリング結果は操業後でないとわからない。もし「万が一」が起これば、これは都政史上類を見ない大スキャンダルになります。そこで、「万が一」の場合でも、建物地下で汚染の除去作業等ができるよう、地下にこっそりスペースを確保しておこう、そう判断したとしてもおかしくはありません。

特別委員会を乗り切った都は、平成22年12月から平成23年3月にかけて工事の詳細を設計、平成23年7月に工事発注、同年8月には契約を終えています。なお設計から発注までは技術会議委員がその内容を確認しているとのことですから、もし設計書に地下空間が記されていれば、この時点で判明したはずです。しかし、その後平成23年10月18日に開かれた第15回会議では指摘なし。施工概要にも記されていません。

↓ 豊洲新市場土壌汚染対策工事・施工概要
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/15-5.pdf

このことから想定されるのは、都が会議や議会説明向けの「全面埋戻し・盛り土」の設計書と、実際に施工する「地下空間設置」の設計書の2種類を用意し、場面に応じて使い分けていた可能性です。しかし、存外、設計書は「地下空間設置」だったのに、誰も気付かなかったという、ありえなさそうな可能性も残されています。

平成25年12月24日の第16回会議では、土壌汚染対策工事の進捗状況が報告されましたが、その説明資料4ページを見ると、7街区は砕石層の設置が完了されている、とある。資料1ページにあるように、砕石はA.P.+2.0m層にすべて敷き詰めると説明されていましたが、資料28ページを見ると、建物が建つ予定の敷地には砕石が敷かれていない。この時点で「あれ?おかしいぞ」となるべきでは、と思うのですが、委員はだれも疑義を出していません。

↓ 第16回豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 説明資料
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/16-1-1.pdf

さらに、平成25年12月24日の第17回会議。説明資料21ページで土壌対策工事がすべて完了した7街区の図が出ていますが、細かくて見づらいのですけれど、建設物の立つ敷地の高さがA.P.+2.0mとなっています。専門家会議の提言を守るなら、建物もA.P.+6.5mまで盛った地面の上に建てなければなりません。これでは、建設物の地下に空間ができてしまう――この図を見れば一目瞭然です。それなのに、小幡委員は「施工中の現場を2回視察しましたが、汚染土壌の掘削や仮設土壌処理プラントでの処理など、適切に汚染対策が進められていることを確認しました」と報告している。

↓ 第17回豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 説明資料
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/17-1-1.pdf

もしかすると、都はあらかじめ委員に根回しし、設計上は全面埋戻し・盛り土となっているが、実際は地下空間を作る、ということで口裏を合わせたのかもしれません。委員の言動はそれで納得できますが、注目したいのが、この資料は平成26年2月20日にHPで公表されていること。あれほど安全性を気にしていた都議員の方が、これにまったく無反応なのです。

※なお、平成26年11月27日の第18回(最後)の会議では、他の5街区、6街区についても報告されましたが、やはり建設物の地下は盛り土がされていません。

↓ 第18回豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 説明資料
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/18-1-1.pdf

議会説明では、加藤基盤整備担当部長が平成26年3月7日の平成26年経済・港湾委員会で「二・五メーターのきれいな土による盛り土とアスファルト舗装等を行うことにより、敷地全体を四・五メートルのきれいな土などで覆います」と従来どおりの説明。この説明が虚偽であるのは明らかですが、上記資料等を持ち出して追究する委員はなし。同年6月5日の同委員会でも、加藤新市場整備部長(前述の部長とは別人?)が「ガス工場操業地盤面であるAPプラス四メートルからAPプラス二メートルまでの土壌については、汚染の有無にかかわらず、きれいな土で全て入れかえ、……盛り土を実施」と説明。追究なし。同年12月22日、技術会議解散後の同委員会。若林基盤整備担当部長より「ガス工場操業地盤面から下二メートルまでの土壌を敷地全域にわたり、汚染の有無にかかわらず全てきれいな土と入れかえ、その上にきれいな土で二・五メートル盛り土をする」と説明。追究なし。

なお、同委員会では田中(健)委員などから「地下水モニタリングでは、環境基準を超える汚染が検出されるということがこの話の中であり得るのか、また、あった場合、そのときの都の対応についてを伺いたい」と、土壌汚染対策法の要措置区域に指定された場合の対応について何度か質問があったものの、都は「専門家の知見もいただきながら、市場関係者や都民の安心や理解が得られるよう適切な対応に努め」る等、具体的な回答を避けています。実は地下空間を設けてあって、それで対応するつもりだ――などとは、もちろん、語られていません。

まとめますと、都は「盛り土をしていない」ことを堂々と図示した説明資料を公表しつつも、都議員からの「地下水モニタリングの結果が出ていないのに、本当に安全なのか」という批判には、専門家会議の言うとおり盛り土とかしてるから(実は地下空間作ってるんだけど)大丈夫と、面の皮厚くも弁明。都議員は、上記説明資料に目を通していないのか、はたまた読んだのに見えていなかったのか、盛り土の有無についてはまったく追究せず、結局は都の説明を鵜呑み、と次元の低い答弁が展開されていたわけです。

そして、今になって「盛り土がされていない!」と大騒ぎ。都が偽の設計書を用意していた疑惑、技術会議の委員が地下空間の存在を知りながら見て見ぬふりをしていた疑惑、これも問題ですが、かくもはっきりと「盛り土がない」図が平成26年2月20日には公表されていたのに、疑問にも思わなかった都議員も問題です。

都としては、全面に埋戻し・盛り土するから安全と言った手前、いまさらこの方針は変えられない。けれど、もし地下水モニタリングの結果で、もし土壌汚染対策法の要措置区域に指定されたらとんでもないことになる。だから、こっそり作業用地下空間を設けよう、おそらくそう考え、手練手管を尽くして地下空間ありの設計で通したのでしょう。だったら最後まで隠蔽し通すものかと思いきや、報告書で「盛り土がされていない」図をあっさりと公表している。一方の(特に反対派の)都議員は「自分、安全性をすごく気にしています!」とアピールしながら、かくもおおっぴらに「約束破りました」宣言がされたのに、これを華麗にスルー。全体を通して、非常に滑稽と言いますか、「どっちもちゃんと仕事しろよ!」と言いたくなります。

もちろん、これはネットで知ることのできる情報から、私が推理し、構成した顛末ですから、事実がどうであるかは、都の説明や報道を待たなければなりませんが、いずれ国民・都民にとってはげんなりするほどお粗末な結果が待っているように思われます。
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