ドキュメント72時間「村長選挙 旅する投票箱」感想

11月25日放送のNHK『ドキュメント72時間』は、「村長選挙 旅する投票箱」。
http://www4.nhk.or.jp/72hours/x/2016-11-25/21/31039/1199156/


福島県の飯館村は、来年度に避難指示区域が解除される予定。10月に行われた村長選挙では、解除されたらすぐさま帰村しよう、と主張する現職の村長と、戻るのはまだ早いと主張する新人候補が一騎打ち。村から避難していて、村内の投票所に行けない村民のため、各仮設住宅を中心に、投票箱が旅をする。

村の除染は、住宅地や農地など、人々が生活する地域はだいたい終わったけれど、山林の除染は(飯館村に限った話ではないけれど)済んでいない、というか、あまりに広大すぎて、除染は現実的じゃない。だから、面積で見れば、除染できているのは村の1/4程度という。

村民の想いは様々。村全体の除染が完了するまでは不安だ、という人もいるし、長い避難生活のなかで、避難先でしっかり生活の根を下ろしたから、解除されようがされまいが関係ない、という人もいる。

ある仮設住宅では、お年寄りが立派なマツタケを持っていた。近くの山で採ってきたという。放射線量を測ると、8,000ベクレルだったそうだけど、食べちゃったよ、と笑顔で話す。県職員の端くれとしては、キノコとか、山菜とかを山で採るのは自粛してね、と言いたいところだけど、測定に持ってきてくれるのはまだ良い方で、気にせず食べちゃう人もやっぱりいる。念の為に言うと、きちんと管理されて栽培されたキノコなら、福島県産でも安心ですからね。

で、そういう人は、たぶん、除染がされようがされまいが、「帰っていいよ」と言われれば、帰るだろう。一方で、原発事故前の放射線量になるまでは帰りたくない、という人もいる。難しいところだけど、事故前の水準に戻すとなれば、さらに長い時間と膨大な費用がかかるから、そこはどこかで線を引いて、あとはエイヤと事を前に進めるしかない、と思う。

ただ、除染がどうのに関わらず帰りたい、という人でも、帰った後がたいへんだ。お店とか、公共サービスが整っていない、ということもあるけれど、村民の生業のほとんどは、農業。村で栽培された作物を、作った本人や、村民、それと「ある程度の県民」は、さして気にせず食べるだろう。けれど、一歩県外に出荷されたらば、きっと、売れない。「フクシマは放射性物質に汚染されている」という風評は、それがイジメの原因になるくらい、日本中に広まっている。これで生計を立てていけるのか、どうしたって不安は残る。

印象的だったのは、番組の最後の方、村内の自宅の片付けに来ていた農家の男性が、村や、村民のこれからの行方は「取材をするほどのことではない」と、話した。人は、それぞれの置かれた状況に応じて、生活を組み立てていく。帰村は、どこで暮らしていくか、ということの選択肢のひとつに過ぎなくて、帰村したらしたで、そこで生活が営まれていく。ただそれだけのこと、当然のこと。他の誰とも、どこの場所とも、違わない。

きっと帰村は、私たちが思うよりも困難だけど、私たちが想像するよりは、大したことではない。非当事者の私たちは、この機微をわきまえた上で、避難者の帰郷を眺めるまなざしを、形成していかなくてはと、思う。
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