なぜ京都産業大学ではなく、加計学園が選ばれたのか――公開資料から検討する

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前回のエントリーでは「今治市・愛媛県では長年に渡って獣医学部新設に向けた特区指定を目指しており、加計学園が獣医学部を担うことは、当初から今治市・愛媛県サイドで内定していた可能性がある。正式に加計学園が採用された経緯については、事業者の公募期間が短い等、選定方法の適切さに疑問が残るものの、加計学園を採用するのは今治市・愛媛県サイドの既定路線であり、ここにいわゆる『総理の意向』が働いた形跡は認められない」という私見を披露しました。

※なおその後、さらに資料漁りをしていましたら、「日本獣医師政治連盟役員会」の平成20年度第1回議事概要に行き当たりまして、そのなかで獣医学部新設要望の動きについて「今治市と愛媛県から内閣構造改革特区推進本部に対し、……学校法人加計学園が獣医学部を設置し、……四国地域における獣医師の需給緩和に寄与するためとし,「特区」申請がなされた」と報告されています。このことから、今治市・愛媛県サイドで加計学園が内定していたことは、ほぼ間違いありません。

『平成20年度第1回日本獣医師政治連盟役員会の議事概要 ※発言該当ページ』
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06105/a13_2.htm

しかしながら、これはあくまで「特区の内部」でのお話です。加計学園が選定されたことに付き纏う疑惑は、「特区と特区の間」にもあります。すなわち、獣医学部新設は、京都府の京都産業大学も望んでいたのに、なぜ加計学園だけが選ばれたのか。はじめから「総理の意向」で「加計学園ありき」だったのではないか、というのがそれです。

本稿では、前回と同様、ネット上に公開されている資料を基に、加計学園が選ばれた経緯を追跡してみたいと思います。

ではまず、獣医学部の新設が、内閣府サイドでどのように取り上げられてきたのかを確認するため、「国家戦略特別区域諮問会議」の議事録等を追ってみましょう。

「国家戦略特別区域諮問会議(以下『諮問会議』と略)」とは、国家戦略特別区域法(以下『特区法』と略)で設置が定められており、総理が特区を指定したり、特区の事業計画を認定したりする際に、その妥当性等について審議・意見するための機関です。

諮問会議で獣医学部についてはじめて触れられたのは、平成27年6月29日に開催された第14回会議で、議事録には「獣医師養成系大学は、40年以上新設されていないのですが、 今、エボラその他いろいろな獣に由来した病気が伝播しています。したがって、こういう 研究者をつくるということは非常に大切なので、獣医大を新しく新設することを検討することになりました」との発言が記録されています。

『第14回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai14/gijiyoushi.pdf

この時点では、今治市・愛媛県はまだ特区の指定を受けておらず、また獣医学部の新設も規制改革のメニューにありませんでした。なお、どうして獣医学部を新しく作るのに特区が必要なのかおさらいしておきますと、大学の設置認可については、平成15年に文科省が告示した「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」において示されているところですが、その第一条第四項で「……獣医師……の要請に係る大学の設置若しくは収容定員増又は医師の養成に係る大学等の設置でないこと」としており、文科省は獣医学部の新設はおろか、既存学部の定員増すら認めておらず、またこの方針を変える気もさらさらなかった。そのため、もし獣医学部を新設したいのなら、内閣府の後ろ盾を得て特区となり、規制を緩めてもらわねば実現不可能でした。

『大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準』
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/10/27/1260236_1.pdf

なぜこの第14回会議で取り上げられたのかについては、それを直接示す資料は見当たらなかったので詳細はわかりません。ただ、内閣府では規制改革をさらに推進するため、特区の範囲拡大と新たな規制改革メニューの追加を検討していたところでした。特に新規メニューについては、各自治体の要望内容を基に検討することになりますから、内閣府はすでにどこの自治体が何に取り組むために特区指定を希望しているのか、概ね把握していたものと思われます。そのなかのひとつとして、「今治市・愛媛県が獣医学部新設を特区でやりたがっている」ことも承知済みであり、次の応募の際にエントリーできるよう、検討事項に前もって加えたものと思われます。

※後日捕捉。平成26年7月18日に開かれた新潟市の区域会議で獣医学部新設の提案があり、それをきっかけに国家戦略特区ワーキンググループが、数度に渡ってこの件について担当省庁にヒアリングを実施。第14回諮問会議の24日前の6月5日には。「国際水準の獣医学教育特区」を提案した今治市・愛媛県にヒアリング。6月8日にはこの件について担当省庁にヒアリング。「需給調整は必要」とする文科省と、「それは市場が決めること」とするWG委員との溝はついに埋まらず。

かくして、当会議の翌日、平成27年6月30日に閣議決定された「「日本再興戦略」改訂2015」には「獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討」が盛り込まれることになります。

『平成27年6月30日 日本再興戦略改訂2015 本文(第二部及び第三部)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf

当改訂により、規制緩和の対象は大幅に広がり、改革をさらに前進させるべく、特区の第三次指定区域の選定が始まります。平成27年11月27日開催の第17回会議でこのことが議題に上っていますが、当選定には43もの自治体が名乗りを上げ、その31番目に今治市・愛媛県が「獣医学部検討」でエントリーしていることが確認できます。

『資料2 国家戦略特区の3次指定について』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai17/shiryou2.pdf

次の平成27年12月15日開催の第18回会議において、第三次指定は千葉県千葉市、福岡県北九州市、そして広島県及び愛媛県今治市の3区域する案について諮問会議への意見照会が行われ、特に異議なく承認。平成28年1月29日付けで「国家戦略特別区域を定める政令」が改正され、同3区域が正式に特区となります。

さて。今治市・愛媛県は43もの自治体の中から選ばれたわけですが、そもそも今治市・愛媛県は特区としてふさわしくなく、選ばれたこと自体が「不適切」で、つまりは「総理の意向」が働いたからこそ特区になれたのでは、という声も聞かれます。

特区の指定基準については「国家戦略特別区域基本方針」で掲げられています。そこには「特区の指定に当たっては恣意的な指定とならないよう、その検討過程の透明性を確保するととともに、可能な限り定量的な指標も活用しつつ、客観的な評価に基づいて検討を行うこと」とされ、評価の基準としては、プロジェクトの先進性・革新性等、地方公共団体の意欲・実行力、プロジェクトの実現可能性等が挙げられています(15ページ)。

『国家戦略特別区域基本方針』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kihonhoushin.pdf

「客観的な評価」を行うとなると、一般的な行政のやり方であれば、それぞれの事項について細かく評価項目を設けてポイントづけし、そのポイントの高い方から順に何番目までを採用、とするところです。これならば確かに公平・公正だと言えるでしょうが、しかしこのやり方は、それぞれの地域の特徴や強みをばっさり捨象して、評価する側の好みのかたちに標準化した上でその優劣を競うというものです。要するに学校の試験と同じで、生徒はそれぞれ個性的な才能を持っていますけれど、画一的な試験では、それを発掘したり、伸ばしたりすることは困難です。

また、こうした評価項目は複雑なものとなりますから、政治家ではなく官僚が作成することになるでしょうが、特区の主旨のひとつは、その官僚が築き上げた規制に風穴を開けることです。つまり、当の官僚に「お任せ」してしまうと、官僚が自身の既得権を守るのに好都合な評価指標を作成して、終いには特区制度そのものが「岩盤規制化」するおそれがある。それでは元も子もありません。

特区の狙いを実現するならば、ガチガチに評価基準を設けるのではなく、政治家自身の信念と判断によって柔軟に運用していくよりありません。その意味で、政治家の「恣意性」をまったく排除することは不可能ですし、特に総理は、リーダーシップを発揮して規制改革を先導する役目を果たさなければなりませんから、「総理の意向」が重視されるのは、制度設計上の仕様ともいえます。

本稿の本筋から逸れてしまいますので、特区制度そのものの批評はいたしません。ここでは、特区制度は官僚主義的な視点では見えてこない、日本社会にブレイクスルーをもたらすような、意欲的かつ挑戦的で、しかし行政であれば失敗を恐れてまず手をつけないリスク含みの案件を、内閣府が主導して取り上げ、後押しするものであることを確認するに止めておきます。

とまれ、今治市・愛媛県は諮問会議において「とりわけ獣医学部等々を含むライフサイエンス系の問題にこの地域が取り組もうとしているところは、……高く評価すべき」と好評を得ています。先だって医学部が特区により38年ぶりに新設された一方、獣医学部は47年間(当時)新設されていませんでしたから、より堅牢な岩盤規制に対しても、内閣府は果敢に挑んでいるのだと内外にアピールする「目玉事業」としても打ってつけであり、選定前から有力視されていたのではないでしょうか。

『第18回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai18/gijiyoushi.pdf

ここで注意したいのは、この時点では、後々問題となるような「獣医学部のない地域」に限って「1校」のみ認める、という規定はなかったことです。上述しました「日本再興戦略改訂2015」において、獣医学部の新設については次のように記されています。

「現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う」

この記述からは、今治市・愛媛県以外の自治体を除外するような意図は見られません。そればかりか、「現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想」という文章の現在の提案主体とは、今治市・愛媛県のことを暗に示しているとも解釈でき、その場合、これは「今あんたらが提案しているようなフツーの獣医学部じゃパンチが足らん。もっと攻めの構想を練ってからエントリーしろ」という、内閣府から今治市・愛媛県への注文とも読めます。

ともあれ、規制改革の「象徴」として獣医学部の新設は非常に魅力的であり、また今治市・愛媛県は長きに渡って本件を要望しており、特区にかける想いは折り紙つきでしたから、特区に選ばれたことはそれほど不自然ではないと思います。総理がわがままいってねじこまなければ選ばれなかった、と勘繰るのは少々無理があるのではないでしょうか。

一方、この獣医学部新設に向けた動きに対し敏感に反応した者がいます。日本獣医師会及び同会長です。

第18回会議の3日後、平成27年12月18日付で発行された日本獣医師会の「会長短信「春夏秋冬」」の第29号は、「驚きのニュース」と題して、今治市・愛媛県の特区指定を痛烈に批判し、獣医学系大学、また「政連等における獣医学部新設反対の活動は、これからが本格的な山場に入った」と危機感をあらわにし、さらに「本件を契機として次々と設置申請が認可されることは、何としても阻止しなければ」ならない、と意気込んでいます。

『会長短信 春夏秋冬(29)』
http://nichiju.lin.gr.jp/test/html/aisatsu/shunkashuutou/log29.html

日本獣医師会も、文科省も、何も理由がなくイジワルで新設を認めていなかったわけではありません。獣医師の需要は十分に足りているという認識のもと、新設する予算があるなら既存の学部の質を高める方に回すべき、という方針をずっと貫いてきたのです。この日より、日本獣医師会のロビー活動が関係各所で展開されたであろうことは想像に難くありません。

そんななか、日本獣医師会にとってさらに「驚きのニュース」が届きます。

京都府の含まれる「関西圏国家戦略特別区域」が平成28年3月24日に開催した第8回会議において、京都府が「新たな獣医学部・⼤学院研究科の設置のための抑制解除」として、京都産業大学を主体とした獣医学部の新設を提案したのです。

『資料4 関西圏提出資料』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/160324goudoukuikikaigi/shiryou4.pdf

提案といっても、区域計画案に乗せるための下準備として、区域会議での検討事項に上げておくことが目的です。ただ、この提案が議題に上っていることは非常に重要です。というのも、こういった会議で取り上げる議題は、知事レベルから事務方担当レベルまで、様々な主体間で綿密に調整した上で決まります。ですから、内閣府の関係者が、京都府がさらなる獣医学部の新設を提案することを事前に知らないはずがない。京都産業大学の獣医学部新設が最初からNGであるならば、そもそも議題に上るはずがないのです。

ゆえに、この頃までの獣医学部に対する内閣府の方針は「新しいことにチャレンジするなら、今治市・愛媛県に限らずドンドンやってちょうだい」だったと推測できます。少なくとも、今治市・愛媛県に「限定」して京都府は排除しよう、という意図も予定も、この頃はなかった。

しかし、この動きに対して日本獣医師会は猛烈に反発します。

平成28年6月24日付けの「会長短信 春夏秋冬」第35号では、「外圧に屈せず一枚岩の団結で」と題し、特区における新たな獣医学部・大学院研究科の設置の動きを取り上げています。名指しはされていませんが、「iPS細胞等再生医療」に係る取り組みをしている特区であることは言及されていますので、京都府・京都産業大学のことであることは明確です。

当通信によれば、日本獣医師会の地方会に対し、地元自治体から「本件に協力するよう強い要請があった」ため、「協力する旨の文書を発出せざるを得なかった」として、今後も政治・行政側から同様の圧力がかかるおそれがあるとして、各会員に注意を促しています。

また、京都府の案件は日本再興戦略で示された獣医学部新設の条件に該当するとは思えないとの見解を示し、圧力に屈することなく、「一枚岩の団結で」反対を貫いていくことを呼びかけています。

『会長短信 春夏秋冬(35)』
http://nichiju.lin.gr.jp/test/html/aisatsu/shunkashuutou/log35.html

日本獣医師会の予想を上回る反発に遭い、獣医学部新設の規制改革はにわかに暗雲が立ち込めてきました。内閣府が「京都府・京都産業大学の案件をこのまま進めれば、日本獣医師会と政権との関係が修復不可能なほど悪化するやもしれない」と判断してストップをかけたか、あるいは京都府・京都産業大学が日本獣医師会の反対を受けて自粛したか、地方の獣医師会が、本家からの指示で「非協力」に転じたか、いろいろ理由は想像できますが、平成28年3月24日の区域会議を最後に、京都府からの獣医学部新設の提案はぱったりと止んでしまい、区域計画に盛り込まれることはついにありませんでした。

※訂正。平成28年10月17日の国家戦略特区ワーキンググループで京都府と京都産業大学が獣医学部設置についてヒアリングを受けている。WG委員は、文科省や獣医師会の反対が強いので、特区で突破する戦略を練りましょうと提案。しかし後述のとおり、それから1か月足らずで京都府案は事実上対象外となる。

一方、今治市・愛媛県の方では、平成28年3月30日に開催された第1回目の「広島県・今治市国家戦略特別区域会議」で、菅今治市長が獣医学部新設に向けて早急に準備を進めていきたい旨を述べ、また諮問会議のメンバーが「獣医学部の新設は重大な改革」であり、「日本全体にとって必要なもの」だからがんばって欲しいと激励するなど、いけいけどんどんの空気が漂っています。また、平成28年9月21日開催の第1回今治市分科会において、特区として獣医学部新設を正式に提案する方針であることが確認されるなど、着々と準備が進んでいきます。

『広島県・今治市国家戦略特別区域会議(第1回)議事要旨』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/dai1/gijiyoushi.pdf

そして、平成28年11月9日に開催された第25回諮問会議において、獣医学部の新設が追加の規制改革事項として正式に加わることになります。しかし、その内容には、以前はなかった「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」との文言が盛り込まれています。関西圏には大阪府立大学に獣医師の養成機関があるため、この時点で京都産業大学は規制対象から外れることとなりました。

『平成28年11月9日 国家戦略特区における追加の規制改革事項について(案)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai25/shiryou3.pdf

あくまで推測にはなってしまいますが、遅くとも平成28年6月には、日本獣医師会は京都府の獣医学部新設の動きを掴んでいます。日本獣医師会としては、今治市・愛媛県での新設については、心の底から反対ではあるけれど、ともかくそれ以上のさらなる新設は何としてでも阻止する、という構えでした。内閣府としては、規制改革の「目玉」であり、今治市・愛媛県の長年の願いだった獣医学部新設そのものを頓挫させるわけにはいきません。そこで、最終的には政治的判断から「今治市・愛媛県は該当するけれど、京都府は非該当」となる条件を設け、当面、次の獣医学部新設はないことを示し、事態の鎮静化を図ったものと思われます。

しかし、日本獣医師会はまだ満足しませんでした。

先に、獣医学部新設を規制していたのは、文科省の「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」という告示があるから、と説明いたしました。獣医学部新設には、この告示を一部改正しなければなりませんが、このことについて内閣府はパブリックコメントを募集します(平成28年11月18日~12月17日まで)。

『「文部科学省関係国家戦略特別区域法第二十六条に規定する政令等規制事業に係る告示の特例に関する措置を定める件の一部を改正する件(案)」に関する意見募集の結果について』
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095161090&Mode=2

だいたいのパブリックコメントは、10件も意見が寄せられれば多い方なのですが、本件では976件もの意見が提出され、その8割が反対意見でした。しかし、反対意見が容れられることはなく、平成29年1月4日付け、内閣府と文科省と共同で特例措置を定めることが告示されます。しかし、この告示には、平成28年11月9日の規制改革事項にはなかった、「一校に限り」という条件が追加されています。

『文部科学省関係国家戦略特別区域法第二十六条に規定する政令等規制事業に係る告示の特例に関する措置を定める件(平成27年内閣府・文部科学省告示第1号)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/170104_kokka-monka.pdf

もはや地域要件さえ消え失せ、実質上、今治市・愛媛県に限定して認めるものとなりました。どうしてこうなったのか。日本獣医師会が雄弁に語っています。

平成29年1月30日付けの「会長短信 春夏秋冬」第35号において、先のパブリックコメントについて「皆様方から多数の怒りのコメントを提出いただ」いたとあり、あの反対意見の山は、日本獣医師会の旗振りで組織的に集めたことが窺えます。

また、ここからが重要なので、少々長いのですが引用します。

「この間、私や日本獣医師政治連盟の北村委員長を始めとした本会の役職員は、できれば獣医学部新設決定の撤回、これが不可能な場合でもせめて1校のみとするよう、山本幸三地方創生担当大臣、松野博一文部科学大臣、山本有二農林水産大臣、麻生太郎自民党獣医師問題議員連盟会長、森英介同議員連盟幹事長など多くの国会議員の先生方に、本会の考え方にご理解をいただくよう奔走いたしました。
 このような皆様方からの多数の反対意見、大臣及び国会議員の先生方への粘り強い要請活動が実り、関係大臣等のご理解を得て、何とか『1校に限り』と修正された改正告示が、本年1月4日付けで官報に公布・施行されました。」

「この間」というのが、パブリックコメントの募集期間のことなのか、または、特区での獣医学部新設の可能性が出てきた平成27年6月30日の日本再興戦略2015改訂の頃からなのかは定かではありませんが、しかし、日本獣医師会が精力的に反対の働きかけを強めていたことがわかります。そして、突然、告示に盛り込まれた「1校に限り」の条件は、この反対運動の成果であったと、日本獣医師会自身が誇らしげに語っているのです。

『会長短信 春夏秋冬(42)』
http://nichiju.lin.gr.jp/test/html/aisatsu/shunkashuutou/log42.html

まとめましょう。

まず、特区での獣医学部新設は、今治市・愛媛県からの要望がきっかけで規制改革メニューに盛り込まれたものではありますが、当初、内閣府では今治市・愛媛県に限定するつもりはなく、むしろ意欲的な取り組みが他にもあれば認めていく方針でした。しかし、京都府・京都産業大学も今治市・愛媛県に続いて獣医学部新設に向けて動き出したころから、日本獣医師会の反対運動が激化。日本獣医師会との決定的な対立は避けたい内閣府は、獣医学部のない地域に限定することで京都府・京都産業大学を暗に対象から外すことにしたが、それでも不十分と見た日本獣医師会が告示前にスパートをかけ、さらに「1校に限り」という文言を引き出してひとまず手打ちとした、とこれが事の顛末なのだと考えられます。

告示の内容だけ見ると、あたかも内閣は最初から今治市・愛媛県「だけ」に認める考えであったかのように錯覚してしまいますが、順をおっていくと、地域や校数の限定は当初からの方針ではなく、日本獣医師会をはじめとする反対勢力との政治的駆け引きの末に生れた鬼子なのです。

もちろん、京都府・京都産業大学を外す前に、今治市・愛媛県のプランと比較して、前者の方が優れていたならば、逆に今治市・愛媛県を外すような要件を設定すべきだったのでは、という声もあるでしょう。しかし、京都府・京都産業大学が新設を提案したのは平成28年3月24日。すでに今治市は広島県とともに特区の指定を受けており、獣医学部新設に向けていち早く動き始めていました。その今治市に向かって「あなたのところは長いこと獣医学部新設を要望していたし、その熱意を評価して特区指定したけれど、あなたのとこよりも優秀な取り組みがあるみたいだから、もう準備進めてるところ悪いけど、いったん白紙にしてね」と通告するのは、はたして適切といえるでしょうか。

以上、長々と書き連ねてきましたが、過去の資料を読み解いていますと、「総理の意向」で京都府・京都産業大学が外され、恣意的に今治市・加計学園が選ばれた、というストーリーは成り立たないと思われます。当初は地域・校数の縛りはなく、内閣府としては、京都府・京都産業大学も、今治市・加計学園に続いて認可することもやぶさかではなかったと思われます。しかし、日本獣医師会の激しい抵抗の結果、どちらか一校しか通せない状況となり、仕方なく、長年準備を進めてきた今治市・加計学園を優先して認めることにしたのでしょう。つまりは「総理の意向」で今治市・加計学園が選ばれたのではなく、むしろ「総理の意向」程度ではどう仕様もない状況に陥り、政治的判断の結果、今治市・加計学園に限定せざるをえなくなった、と見るべきではないでしょうか。

となりますと、なぜこの「加計学園問題」がここまで「問題化」しているのか、という疑問が浮かんできます。そもそも、「総理の意向」というのが非常に問題視されていますが、上述のとおり、今治市・加計学園が選ばれたのは政治的必然だったと評すべきですし、特区制度自体が、官僚主義的な行政を打破すべく、極端な言い方をすれば、「総理の意向」が十分に反映されるよう設計されているのですから、批判するなら特区制度そのものを批判すべきです。

特区制度は、内閣府を中心とする「政治主導」の柱といえる取り組みです。これに対し、特区制度ではなく、「総理の意向」そのものを問題視しするかたちで、批判が噴出している。となりますと、当然考えられるのが、総理がリーダーシップを発揮する「政治主導」を快く思わない勢力が、その頓挫を狙って仕掛けた「情報戦」なのではないか、という線です。

私は、この「加計学園問題化問題」の本丸は、まさしくこの線にあるのだと見ています。とまれ、本稿の目的は達せられましたので、本稿はここで閉じさせていただき、「本丸」についてはまた別稿で改めて論じさせていただきます。
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